春がきたみたい!

f:id:tanpopo-keikoniki:20210208154633j:plain日曜日にデイサービスの昼食を作るアルバイトは2ヶ月めに入った。厨房の調理器具の置き場所、冷蔵庫や冷凍庫の食材の把握、利用者さんのお名前も何とか覚えて楽しくなって来ている。

前回は調理員さんからの伝言で、炊き過ぎたご飯を使って欲しいとの事だったので、冷ご飯を使って主食をオムライスにした。私がやっているカフェでも、年配の女性がオムライスを注文されることがあるので、きっと食べて頂けるだろうと思ったのだ。

クリームシチュウと組合せ、主菜のヒレカツには茹でキャベツ、トマトとブロッコリーを添える。根菜の煮物と手作りの漬物の小鉢。メニューが決まれば後は楽だ。

人参のストックが沢山あるので、一本摺りおろしてパウンドケーキ
を焼いて、オヤツにしよう。

次々に登所して来られる利用者さんにコーヒーとオシボリを出しながら、調理をしていく。優先順位を考えて、段取りをした通りに作業が進む時が私の一番好きな時間だ。

そして、少し早めに全ての料理が仕上がり、配膳も完了すると、やはりホッとする。

食事を運んでくれる介護士さんが、〇〇さんが、春が来たみたい!って言っておられますよ。と、私に告げてくれた。

ああ、黄色い卵、赤い人参、緑鮮やかなブロッコリーの取り合わせを、そう感じて下さったか!
嬉しかった、そしてまた、次回も頑張ろうと思った。
私の心にも温かな春の空気がいっぱいになった。

72歳のアルバイト

1月第2週から、毎日曜日にデイサービスで昼食を作るアルバイトが始まった。前回、前々回は施設の調理員さんが献立を立ててくれた通りに、見守って貰いながら調理したが、今回は初めて全てを一人でやってみた。

多少の緊張感はありながらも、利用者さんと会話をしながら作業する事も出来て、いい感じに昼食時間前には仕上がった。炊き込みご飯、サワラの照り焼き、白菜の煮浸し、人参のグラッセ、きゅうりの酢の物、豆腐のあんかけ、それに蕪の味噌汁を作り、調理員さんの作り置きの煮物と柚子大根を添えた。

利用者さん達は、介護士の声に合わせて、食前に発声しながら口の体操をする。咀嚼を促し、誤嚥を防止するのだそうだ。

いただきます!と、挨拶をして食事が始まった。それぞれ自分のペースで食べ始めたので、私の作ったものが口に合うだろかと不安になりながら、少し離れて見守っていた。お箸の使い方がきれいな人が多いと、90歳代の人達の箸さばきに見入ってしまう。

この施設の利用者はお元気で、食事を楽しみにしている人が多いと聞いている。一つ一つ、空になっていく食器を見ながらホッと胸を撫で下ろす。ところが、車椅子に乗った一人の食事がなかなか進まないことに気が付いた。介護士さんも、もう少し頑張ろうと、励ましているがピタリと箸がとまり、静かに箸置きに箸を納めてしまったのだ。

前回も前々回も主食以外は残さずに食べていたと記憶している。やはり、調理員さんと私の料理は何か違うのだと思った。炊き込みご飯はもう少し柔らかい方がよかったか、白菜はもっと薄く削ぐべきだったか、主菜の皿は盆の手前の見易い位置に置くべきだったか…
私はあれやこれやと原因探しをしていた。

そして、ハッと気が付いたのだ。車椅子の人は9時に登所して来た時にコーヒーとおしぼりを出したが、確かその時に板チョコを食べさせて貰っていた。本人はさほど食べたい様子ではなかったので、介護士さんも適当に切り上げていたと思う。朝食を食べていないからと家人が持たせたのだと言っていた。

彼女の食欲がなかったのは、あの板チョコを食べたからではないか?いや、きっとそうだと思う。私は、やっと気持ちが落ち着いたのだった。

普段、わたしがカフェで作っているのは普通食、ここでは高齢者に喜んでもらえる食事を作らなければならない。この違いをこれから勉強していこう。

72歳で書いた履歴書

72歳の私にアルバイトの話が飛び込んできたのは1ヶ月前だった。今の私は、火曜日から土曜日にランチを提供するカフェのオーナ シェフとして働いている。その話を持ち込んできてくれたのはカフェのお客様で、私の作る料理を気にいって下さっている人だ。

話の内容はこうだった。彼女の親しくしているデイサービスの経営者が、施設でお年寄りのための昼食を作ってくれる人を探している。現在は79歳になる女性が水曜日だけ休みの週6日の勤務でやっているが、高齢で躰がきつくなってきたらしい。その調理員が休めるように、1日でも調理の仕事をしてくれる人が欲しいとのことだ。いろんな人に当たってみたが、献立表なしで、用意された食材を使って1汁3菜を作らなければならないという条件で二の足を踏まれてしまい、やってくれる人がないのだと言う。私なら、そんな条件でも引き受けてくれるかも知れないと思われたそうだ。

初めは、私にはそんな余裕はないと思いながら聞いていたが、献立表が無くて与えられた食材で任されるという所を、面白いと感じた。そして、深くは考えないで、日曜日なら行けると返事をした。それからトントン拍子に事は運び、72歳の私のアルバイトが決まってしまったのだった。

実際に施設に行って1日一緒に調理をさせて貰ったが、調理員の彼女は日曜日に休みが貰えるのは難有いと喜んで下さった。
そこで、施設長の机をお借りして履歴書を書いたという次第なのだ。さて、どんなことになるのか、初仕事は1月第2日曜日だ。新しい事をする前のワクワクする気持ちを、今は楽しんでいる。

答えは、やはりここにあった!

せっかちで早呑み込みな性分なので、勘違いや思い込みも多いと自覚している。が、それにしても、ここまで思い込みが激しいとは、我ながらショックを隠せない。

前回アップしたブログの、わたしはどこへ、行くのだろう は、書くときから答えを用意していた。娘に、私の棺桶に入れてくれるように頼んである一冊の本に、その答えはあると思っていた。

星野道夫著 旅をする木 が、それだ。ブログを更新したいので読み返そうと本を探したが、わが家には見当たらない。夫が廃品回収に出したかも知れないと思って諦めて、図書館で探してもらった
が、地元の図書館には無くて他の図書館から取り寄せて貰わないと借りられないという。時間と手間がかかるので、ネットで古本を探す方が早いだろうと思い、辞退した。

長女にラインしてみたら、何と彼女の家にあった。それでやっと、読み返す事が出来たのだが、あれっと思った。私は随分、本文と異って
大事な個所を覚えていることに気が付いたのだ。

アラスカの森の川沿いで育ったトウヒの木が川の侵食により、倒木となってユーコン川を旅し、ベーリング海へと運ばれていく。流木となり遂には遠い北のツンドラに打ち上げられて、南に移動する鳥達の休憩場所となる。やがて拾われて焚火になって人を温めたあと、気体になって上空に上がる。そして、雨となって海に落ち、旅を続ける。これが、私の思い込みの 旅をする木 の結末なのだ。

本文では、ツンドラに打ち上げられたトウヒはキツネがテリトリーの匂いを付ける場所となり、エスキモーの家の薪ストーブの中で終わるとなっている。
そして、つぎのような簡潔な文章で締められている。

ー燃え尽きた大気の中から、生まれ変わったトウヒの新たな旅も始まってゆく。ー

ツンドラに打ち上げられたあとは、私の思い込みでイメージを膨らませていた事を知ったのだった。何回も読み返し、人にも話したりしたにも拘らず…

簡潔に終わっているからこそ、読者がその後の物語を自分のイメージで膨らませることが出来るのかも知れない。

私の 旅をする木 は7つの海を旅し続ける。夏には上昇気流となり、しばらくは空の旅、そしてまた、雨となって今度はどこかの山に降って木を育てる。

答えは、思い込みから生まれて、ここにあった。



 

わたしはどこへ、行くのだろう

今は介護つき支援施設に入居している91歳の母が、まだ自宅で一人暮らしをしていた時のことだ。仕事の都合を付けては奈良から徳島に通っていた。

実家に着き靴を脱いで上がると、私が荷物を降ろす間もなく、堰を切ったように母は話を始めるのだった。
体調の不安、身近な人とのギクシャクした関係、子や孫や曾孫の心配、生活の不便さなどを吐き出すように訴える。

私は、ひたすら聞く事に徹しようと思っているにも拘らず、時々反論してしまったりするのだった。そして、分かってもらえないと、母に寂しい思いをさせてしまう。

一頻り喋ると母は落ち着くので、夕食を作って一緒に食べる。人と一緒に食べると美味しいと言って、喜んで手料理を平らげてくれるので、私も嬉しいと思う。

夕食後は、10年前に亡くなった父の話になる。生前、仲が良かったとは思えなかったが、亡くなった人は美化されて記憶に残っているらしく、しきりに懐かしがり、良い夫であった話をする。そして、早くあの世に行って会いたいと言うのだった。娘として、何を言ってあげればいいものかと思案していると、母は、あの世って本当にあるのだろうか?と、呟いた。一瞬間を置いて、私は言った。

行って帰って来た人はないからわからへんけど、あの世はきっとあるよ!
苦し紛れの私の返事を母がどう受け取ったかは分からないままだ。しかし、私はあの世の存在を信じていない人間なのだ。

あの世の存在を信じたなら、母はきっと父と再開するだろう。しかし、お墓さえ要らないと思っている私はいったい、どこへ行くのだろう。

どうぞごゆっくり

カフェに来て下さる常連のお客様には、お気に入りの席がある。そこが空いていれば必ずお座りになるので、それとわかる。

ご予約のない初めてのお客様は、店内を見渡してから好きな席を選ばれる。すぐに決まる方と、しばらく思案してから決められる方、同伴の方の希望に添われる場合もある。この短い時間に、何となく、そのお客様のお人柄が滲みでていると思う。

お席に着かれたのを確認してから、お冷をお出しすると、ホッと寛いだ表情をされている。

店に限らず、色んな場面で自分の居場所を決めなくてはならないことは日常でよくある。特に意識していなかったが、お客様の席選びを見ていて、自分は何を基準に居場所を決めているのだろうと、ふと思った。

多分、その場その場の自分の立場に相応しいと考えた場所に決めていると思う。私にも、よく利用するお店には、お気に入りの席がある。それは、自分が落ち着ける席だ。外の景色が見える窓際とか隅っこが好きだ。これは割と多くの人の好みのように見受けられる。

広いテーブルでゆっくりしたいお客様もいれば、小さな丸テーブルを気にいって下さる方もあり、面白いものだと思う。

でも、皆さんは私の店で、ご自分の一番落ち着ける場所を選んでランチを召し上がったり、おしゃべりを楽しん下さっているのは間違いなさそうだ。どうぞ、ごゆっくり〜

土曜日のカフェで

土曜日のカフェのお客様はご家族連れの、それも0〜3歳までの小さな、お子様同伴の方に多くご利用頂いている。元、認可外保育園の保育室をカフェにした経緯で、当時の雰囲気を残してあるのが、気兼ねなく小さなお子様を連れてご来店いただける理由だと思っている。

今日は、ふたりの子どもを夫が実家に連れて行ってくれたからと、お友達とランチを楽しんでいた常連客のMさんが、{ごゆっくりお食事して下さいね}と、誰かに言っている声が厨房まで聞こえてきた。誰に言ったのだろうと気になって暖簾を上げて見てみると、他のお客様が連れて来られている3歳の男の子を膝に乗せて絵本を開いていた。
彼女のお友達も他のお客様の同伴された女の子と遊んでくれている。
ふたりの子ども達の親御さんは恐縮しながらも、子どもの扱いに慣れたMさんたちに託して、安心して食事を続けておられる。
あ〜、いいなあ〜。こんな空間づくりがしたかったんだよなあ。子育て中のママたちがホッとできて、気兼ねなくランチが食べられる店。
経営は火の車だけど、やりたかったことを目に見えるかたちで、お客様に教えて貰ったと思った。
10月29日は、そんなママたちのためのイベントが(個育ちネット)の主催で企画されている。チェロの演奏と絵本の読み聞かせ。そしてランチも楽しんで頂くという内容だ。美味しいランチを心を込めて作ろうと思っている。