ふるさと

介護付き施設に入居している母に会うために8ヶ月ぶりに徳島に帰省した。施設はコロナウイルス感染予防の対策で、県外に住む者は面会さえ出来なかったのだが、予約すれば15分の面会が許されるようになった。

施設に電話して僅かな時間しか面会出来ないと知って迷ったが、やはり母に会いたかった。

母は別人かと疑う程に老いが進んでいて、胸が詰った。しかし、ゆっくりだが話しかけに応えてくれ、昔話をして心を通い合わせることが出来たと思う。3人の子供がありながら施設に入居していることを母はどう思っているだろう。バス停までの道を、苦労をかけた母の介護をしてやれぬ無念さに泣きながら歩いた。

日帰りの帰省だったので、亡き父の墓参りはできそうにない。それなら徳島駅近くのホールに展示されている、父の書を見に行こうと思った。ガン末期に渾身の力を振り絞って書いた作品に熱いものがこみ上げてきた。誰も居ないのを見計らって作品に抱きついてしまった。父よ!

墓よりも、書の中に父の体温を感じ取ることができた。私の血の中に同じものが流れてると、確認して、帰途についた。